「これから、不動産の賃貸営業はなくなるのでしょうか?」
最近、AIや不動産DXについて考えていると、そんな疑問に行き着くことがあります。
もちろん、賃貸営業そのものがすべてなくなるとは思いません。
ただ、今まで当たり前だった仕事の一部は、かなり形を変えていくのではないでしょうか。
物件を検索する。希望条件に合う部屋を紹介する。鍵を開けて内見する。申込書を書いてもらう。契約手続きをする。
こうした仕事の中には、すでにインターネットや電子契約、オンライン内見、スマートロック、そして生成AIによって効率化できるものが増えています。
もし、この流れがさらに進んだとき、不動産会社には何が残るのでしょうか。
考えていくと、むしろこれから重要になるのが「管理」なのではないかと思います。
「部屋を探す仕事」は、かなり変化しました。
少し前まで、部屋を探すには不動産会社へ行き、営業担当者に条件を伝え、たくさんの物件資料を見せてもらうのが普通でした。
今は、自宅にいながらスマートフォンで大量の物件を見ることができます。
地図も周辺環境も写真も動画も確認できます。
これから生成AIがさらに一般化すれば、「駅から10分以内、2LDK、家賃8万円まで」と条件を入れるだけではなく、「静かなところで暮らしたい」「犬と散歩しやすい街がいい」「在宅勤務が多いので落ち着いた環境がほしい」といった曖昧な希望までAIが整理してくれるようになるでしょう。
つまり、物件検索や条件整理は、どんどん便利になっていきます。
内見予約、申込、契約までオンラインで完結する仕組みも、これからさらに広がっていくはずです。
そうなると、ただ物件を検索して、現地へ連れて行き、鍵を開けるだけの仕事は、以前ほど大きな価値を持たなくなるかもしれません。
でも、不動産は「検索」だけでは終わりません
不動産の面白いところであり、難しいところでもあるのですが、実際の現場は検索条件だけでは片づきません。
家賃をもう少し相談できないか。
入居時期を少し待ってもらえないか。
高齢者の入居を受け入れてもらえないか。
ペットをもう一匹飼えないか。
事務所として少し使いたいけれど大丈夫か。
設備が古くなっているので交換した方がよいのではないか。
こうした相談になると、画面上の物件情報だけでは解決できません。
貸主さんの考えを聞き、入居者さんの事情を聞き、契約条件を確認し、ときには保証会社や工事業者とも相談しながら、現実的な着地点を探します。
ここから先は、急に「人間の仕事」になります。
管理業は、もともと「人と人の間」に入る仕事です
管理会社の日常は、かなり地味です。
水が漏れた。エアコンが動かない。騒音の相談がある。ゴミ出しのルールが守られていない。家賃の入金がない。退去後の修繕をどうするか。
毎日、大小さまざまな出来事が起こります。
そして、そこには必ず人がいます。
貸主さんにも事情があり、入居者さんにも事情があります。
工事業者にも予定がありますし、管理会社にも契約上できることとできないことがあります。
管理という仕事は、結局のところ、それぞれの事情の間に入って調整する仕事なのだと思います。かなり泥臭い仕事です。
でも、AIやシステムが進歩すればするほど、この泥臭い部分の価値が逆に見えてくるのではないでしょうか。
定型業務は、機械に任せればいい
管理会社にも、自動化できる仕事はたくさんあります。
家賃の入金確認、書類作成、契約情報の整理、問い合わせの一次受付、点検時期の管理、データ入力など、ルールが決まっている業務は、これからAIやシステムを上手に使った方がいいでしょう。
人が一生懸命クリックすること自体に価値があるわけではありません。
むしろ定型業務を効率化することで、人が現場を見る時間、貸主さんと話す時間、入居者さんの相談を聞く時間を増やすことができます。
機械に任せられる仕事は機械に任せて、人は人にしかできない仕事をする。
管理業にとって、AIやDXは仕事を奪う存在というより、そのための道具として使うのが一番自然なのかもしれません。
これから貸主さんの相談は、もっと複雑になります
管理業が重要になる理由は、テクノロジーの進歩だけではありません。
建物は年を取ります、そして、貸主さんも年を重ねていきます。
設備の老朽化、修繕費の上昇、空室対策、相続、空き家、家賃設定、リフォーム、建て替え、売却。
賃貸住宅を長く所有していれば、いつか必ず判断しなければならない場面が訪れます。
「このエアコンは修理するのか、交換するのか」から始まって、「この建物をあと10年持つのか」という相談まで、管理会社が関わる範囲はどんどん広がっています。
単に毎月家賃を集金するだけではなく、貸主さんの資産をこれからどうしていくのかを一緒に考える仕事になっていくのだと思います。
管理会社が持っている情報は、意外と大きい
管理会社には、ポータルサイトやAIだけではなかなか持てない情報があります。
この地域では、どんな間取りが決まりやすいのか。
この物件では、どんな設備を付けると反響が増えるのか。
この建物では、過去にどんなトラブルがあったのか。
この貸主さんは、将来この物件をどうしたいと考えているのか。
管理会社は、毎日の仕事の中でこうした情報を少しずつ蓄積しています。
これは単なる物件データではありません。
「その物件を知っている」という情報です。
AIが大量のデータを扱える時代になるほど、こうした現場でしか得られない情報は、むしろ価値を持つのではないでしょうか。
仲介から管理へ、という単純な話でもありません
もちろん、「これから仲介はなくなって、管理だけが残る」という話ではありません。
仲介にも、人にしかできない仕事はたくさんあります。
難しい条件のお客様に物件を探したり、貸主さんと条件交渉をしたり、初めての土地で暮らす人に街のことを説明したりする仕事は、これからも必要でしょう。
ただ、物件情報そのものが誰でも簡単に見られるようになったことで、仲介会社にも管理会社にも、以前より「何を知っているか」「誰とつながっているか」「どこまで相談に乗れるか」が求められるようになっているのは確かだと思います。
その中心にあるのが、やはり日常的に貸主さんと物件に関わり続ける管理業ではないでしょうか。
小さな不動産会社にも、管理という強みがあります
AI時代になると、大手企業だけが有利になるようにも見えます。
確かに、大規模なシステム開発や大量の広告では、小さな会社が大手と競争するのは簡単ではありません。
でも、管理の現場では必ずしも会社の大きさだけで決まりません。
貸主さんのところへ行く。建物を見る。入居者さんから話を聞く。地域の工事業者と連携する。
そして困ったときに電話一本で相談してもらえる関係を作る。
こうした仕事は、むしろ地域に根付いた管理会社が得意としてきた分野です。
テクノロジーを使って事務作業を効率化し、その分、こうした関係づくりに時間を使う。
これからの小さな管理会社には、そんな戦い方もあると思います。
最後に残るのは、たぶん「任せて大丈夫」という感覚です
AIがどこまで進化するのかは分かりません。
数年前には想像できなかったことが、今では普通にできるようになっています。
これから不動産業界でも、さらに多くの仕事がデジタル化されるでしょう。
でも、管理の現場で最後に求められるものは、それほど新しいものではない気がします。
「この人に管理を任せておけば大丈夫」
貸主さんにそう思ってもらえること。
そして入居者さんにも、困ったときにはこの管理会社に相談すればいいと思ってもらえること。
AIやDXが進むから管理業が不要になるのではなく、定型的な仕事が効率化されるからこそ、管理会社が本来担ってきた「人と物件に向き合う仕事」が、よりはっきりしてくるのではないでしょうか。
これからの不動産業界を考えるとき、管理業は今まで以上に大切な仕事になっていく。
そんな時代が、もう始まっているのかもしれません。


